スピーカーケーブルの性能を引き出すためにはスピーカーケーブルの導体とアンプまたはスピーカーの端子との接続が、低抵抗で安定した導通であることが必要となります。
より低い導通抵抗とするには何も介さずにアンプ、スピーカーの端子に直接スピーカーケーブルの導体を取り付けるのも短期的には良いのですが、銅や銀などの導体を用い通常のスピーカーケーブルの導体は時間とともに露出した部分は酸化、硫化などの腐食をして徐々に接触抵抗が増加して安定性に欠けます。導体の端を半田上げすると少しは良いのですが、半田も酸化、硫化することと、半田が機器の端子を汚してしまい、接触抵抗の増加につながります。よって、アンプ、スピーカーの端子に接続するには低く安定した接触抵抗となる端子を使用する必要があります。
スピーカーケーブルによく使われるバナナプラグ、Yラグ端子には様々な形状、材質のものがあります。ここではプラグ製品の中からYラグ(スペード)端子とバナナプラグについてB&W607との接触抵抗などを測定してみました。
使用する端子を選定するにあたり、B&W607の端子パネルにてスピーカーボックスのターミナル内外を通してバナナプラグ4種類とYラグ端子2種類の接触抵抗を4端子法で測定ました。装着を3回繰り返して接触抵抗のばらつきも見てみました。
607の端子は金メッキではなくニッケルメッキになります。パネル内部のファストン端子を測定ポイントにしていますのでジャック側の抵抗は少し高めとなっていました。
測定結果は下表のようになりました。607の端子はニッケルメッキのため、比較用に金メッキの陸式、ジョンソンタイプも測定しました。結果からバナナプラグよりYラグ端子のほうが接触抵抗が低く、バナナプラグはスリットタイプのほうが接触抵抗は低く安定傾向にありました。同じスリットバナナプラグでもAEC製のほうが板厚が厚くバネ圧も高いためか低く安定した接触抵抗となりました。表面処理は金メッキのほうが安定傾向にありました。一般的なバナナプラグに対応したジャックの接点部の穴の深さは12=14mm位しかなく、接点の先端側の一部しか接触してないことによるものと思われます。
スピーカー用の端子とケーブルの接続にはカシメによる圧着、ねじ止めによる固定、半田付けが一般的になりますが当方では接触抵抗の安定化を優先してすべて半田付け処理を行っております。カシメやねじ止めの接続方法の場合、細い素線を束ねたものに使用するとケーブルに少しの曲げの力がかかるだけで不均一な張力が細い素線にかかり断線しやすく、また、十分な導通を得るまでに素線が塑性変形するのでこれも断線の原因になりやすいこともありますのでこのTPSQケーブルは端子との接続部を半田付け処理としました。半田付けですので接続箇所の経時的な接触抵抗の安定化と素線断線などが低減されます。
簡易的ですが以下に導体の酸化による接触抵抗の上昇確認実験結果を示します。試験内容は4S6Gの線材10cmをねじ止めと半田付けをしたバナナプラグ2試料を水道水で湿らせたワイパーとともにポリ袋に入れて夏の室内に3日間放置して両端の抵抗値変化を比較したものです。半田付けしたものは変化がほぼありませんが、ねじ止めしたものは接触抵抗が上昇しており、数値も少し不安定な状況でした。小さな上昇ですが短期間で接触抵抗の上昇がありましたので長期的に見て半田付け処理が望ましいと思われます。
以上のように当方のケーブルは端子との接続には半田付け処理を行います。基本はYラグ端子のタイプが接触抵抗が低く低損失なので推奨します。しかしながら、指定Yラグ端子が使用できないユーザー向けにYラグ端子に近い低損失になるバナナプラグタイプも設定しました。形状がスリットタイプで接圧が高く、しっかりしたAECコネクタ製です。
テスト結果の数字はどれも大変小さいものですが、アンプの出力端子から見ると片チャンネルで接点は4つありますので低く安定した接触抵抗とすることは信号劣化の低減やアンプの性能を引き出すのに有効となります。
スピーカーケーブルを交換して音が変化した場合、機器の経時や寸法などもあり、抜き差し、交換により接触抵抗が変化することで感じられることもあるかもしれません。通常のステレオシステムでも接点は8箇所あります。システムの性能を低下させないためにも端子の選択は重要と考えます。
今回、端子の接触抵抗の評価をB&W607を用いましたが、このスピーカーの場合はスピーカー端子の本体に最短でYラグ端子を取り付けるにはジャンパープレートの上に取り付けることになりますが、端子座金にバネ性がない為か端子ツマミをかなり強く締め付けても簡単にYラグ端子が外れてしまいました。対策をにメーカに問い合わせても良策は得られませんでした。ジャンパープレートを外して直接Yラグ端子を取り付ければしっかり固定されますのでジャンパープレートを外して別にジャンパーケーブルを利用してもよいのですが接点を2つ減らせるように派生品としてジャンパーケーブル付き品も開発しました。ジャンパー線の導体断面積はは2mm2です。